コンピュータ将棋専用機がやってくる

現存するコンピュータ将棋のほとんどは、パソコンソフトとして開発されています。しかし将棋もほかのアプリケーションと同様、汎用コンピュータ用のソフトとして作るよりも、将棋専用のハードウェアを製造した方がはるかに高い性能が出せます。コンピュータチェスの世界では、10年前に大規模なチェス専用ハードウェアが人類のチャンピオンに勝利しました。あの、ディープ・ブルーです。

IBMが開発したスーパーコンピュータとして知られるディープ・ブルーですが、その最大の強みはスーパーコンピュータの汎用的な並列処理能力ではなく、チェス専用のLSIを備えていたことでした。ディープ・ブルーが誇った、1秒あたり億単位の手を読む能力を汎用計算機だけで行うのは、10年経った現在でも不可能です。特にディープ・ブルーは、512個のチェス専用LSIを汎用並列計算機RS/6000 SPで制御するという大掛かりなものだったため、真似できるだけの技術力と資本力を兼ね備えた開発者はほとんどおらず、ゆえにカスパロフを倒したのはビッグ・ブルーならではの偉業だったのです。

しかしこの数年、事情がかなり変わってきました。FPGA(Field Programmable Gate Array)、すなわちプログラミング可能なLSIの価格が急激に下がり続けているのです。ハードの性能とソフトの柔軟性を兼ね備えたFPGAの需要が増したことによって大量生産されるようになり、半導体製造技術の急激な進歩がFPGA開発にも持ち込まれているためです。このため、半導体製造工場を使える大企業でなくてもLSIの設計・開発に近いことが可能になっています。コンピュータチェスでは、チェスプログラムが書き込まれたFPGAを最大限に活用して開発されたヒドラが、ディープ・ブルーよりもはるかに安価な開発費でより深い読みを誇っています。

コンピュータ将棋でも、2003年に出版されたアマ4段を超える―コンピュータ将棋の進歩〈4〉にて、FPGAで将棋を指す回路を設計する研究が発表されています(現在コンピュータ将棋の進歩シリーズは2005年の第5巻まで出版されています)。しかし、世界コンピュータ将棋選手権に出場した将棋専用ハードウェアはまだありません。LSI設計技術を持つ人とコンピュータ将棋の出会いは残念ながらあまり多くないようです。それでも予備軍となる人々は存在し、現在もブログで開発状況を公開しています。

A級リーグ指し手1号の最初の記事、将棋プロセサ 「A級リーグ指し手1号」開発中を読むと、専用ハードの威力がよくわかります。普及型のCPUでは、スーパースケーラなど同時に複数の命令が実行できる技術を搭載したものでも、1クロックあたり数個の四則演算やデータの受け渡しを行うのが精一杯ですが、専用ハードは1クロックで1局面生成してしまいます(探索中は実質2クロックで1局面)。また、ディープ・ブルーヒドラと違って汎用計算機の制御を必要としないようです。完成にこぎつければ、従来のコンピュータ将棋と比較して文字通り桁違いの読みの量に到達するでしょう。

他2つのブログはもうおなじみですね。

世界コンピュータ将棋選手権は新技術の参加を大歓迎いたします。コンピュータ将棋の視野と知名度を広げてくれたボナンザ・ショックも、従来のコンピュータ将棋には縁のなかった技術の成果でした。A級リーグ指し手1号の開発もボナンザの成功がきっかけだそうです。技術の異文化交流は技術の進歩を加速し、世界を豊かにしてくれるはずです。

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